一万円を切る車なんて今時そう無かったからだ。
しかも見た目は全く問題ない。高級感さえあると思う。
問題はさっき言った通り、前にしか進まない事だ。
最初は確かに戸惑った。駐車場に前から駐車してしまい、面倒な事になった時もある。
でも、いつからだろう、何の問題も感じなくなったんだ。
むしろ心地よく感じるようになった。
誰がなんと言おうと、前に進む。
それは四季みたいなもので、自然な事だ。
俺は狭かった部屋を解約し、仕事を辞め、この車にとことん荷物を積んで、
バックミラーも、サイドミラーも取り外し、移動を始めた。
とにかく前に。
この車が止まってしまうまで。
