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hort story

香水の匂いが強い女が隣の席に座った。
あるコーヒーショップでの話だ。
その女は席に着いた途端に、また香水を付け始めた。
禁煙席にわざわざ移動した後だったので、
ちょっと我慢出来なくて、
「香水、もう十分じゃないですか?」
と言おうとした瞬間、新しく付けた香水が匂って来た。
あれ、この香りって?もしかして?
小学生の時に体育館の裏で初めて女の子に抱きついて、
すぐに押しのけられて転んだ時に、花を手の平で潰してしまって、
その時手に付いた花びらが、次の授業の時に手を洗わなかったから
ノートに付いてしまって、ピンクのペン使ったとみんなに思われたくなくて
急いで消そうと思って消しゴムを探したら無くて、
隣の女の子に消しゴム借りてごしごし消してる時に嗅いだ匂いだ。

と気づいた。
一人懐かしがっていると、女が笑いながら俺に向かってこう言った。
「あの消しゴム、貸したまんまだよ」
驚いた俺は思わずコーヒーをこぼしてしまった。
すると、その女はそっとハンカチを差し出し、また会いましょう、と言って
きれいな後ろ姿で店を出て行った。
このハンカチの香り、またいつか思い出すのかもしれない。

- written by kim -

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