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hort story

「順子」というスナックがある。
小学校の同級生のお母さんがやっているお店だ。
久しぶりに偶然お店の前を通ったので、中に入ってみた。
看板もぼろぼろだし、ちょっと悲しい感じになってるかなと思っていたが、
店内には何人かのお客さんもいて、思いがけず若い女の子が出て来た。
あいつ妹なんかいたっけ?と思いながら

順子さんは今日いないですか?
と聞くと、
「順子さんて誰ですか?」と彼女が冷たく言う。
店のママの名前を知らないはずは無いので、思い切って店の名前を聞いてみた。
するとやはり経営が変わってしまったようで、今の店はなんだか今風の名前になっていた。
少し気まずくなったので、
そうですか。とだけ言い、俺は店を出てしまった。
二、三歩離れて、「順子」と書かれた古い看板をなんとなく眺めていると、
さっきの女の子が急ぐように外に出て来て、こう言った。
「本当は私、順子さんを知っているんです、でも今のお客さんの前では言えないんです、
 みんな必死で順子さんを探してて。それで今でもあそこにいるんです、
 順子さんはそういうの全部嫌になっちゃったんです、
 でも元気なんで心配しないでください」

そう早口で言うと、店の中に戻っていった。
あいつは自分のお母さんの事知ってるんだろうか?
そう思ってすぐに彼に電話をかけてみた。
すると「現在使われておりません」のメッセージが流れた。
まったく。やっぱり親子だな。

俺は自分の母親に電話をかけた。
電話に出るまでの待っている時間が、今日はいつもより長く感じた。

- written by kim -

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