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hort story

いつかの待ち合わせ
わざわざ誰が作ったのか、ある公園にはレンガの壁がある。
向こう側には遊具も無いし、守るものも無い。
突然むき出しにそびえた、かなり古いレンガの壁は、特に意味がないものに思っていた。

ある日、そこに老夫婦がゆっくり近づいて来た。
目が悪くなってしまっているその夫婦は、
白い杖を頼りながら、ゆっくりゆっくりその壁まで辿り着いた。

おじいさん、もう少しここで待ってみましょうよ

妻が夫に話しかける。
夫は喋れないのか、何も返事をしない。
一時間くらいその場所で何かを待ち、二人はまたゆっくりとどこかへ帰って行った。

俺はあの夫婦があそこで何を待っているのか、聞く事は出来なかった。
約束なのか、知り合いなのか、あるいは子供たちなのか。

ただ、彼らのためにレンガの壁がまだ壊されないんだとすれば、
それはとても素敵な事だと思った。

- written by kim -

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