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hort story

入らない
ふと電車で音楽を聞きたくなり、何年も使い続けているイヤホンを取り出して、耳の中に入れようとした。

あれ?


入らない。


余りに予想外だったので、入らない事になかなか気付かなかった。
一体どうしたというのだろう?とりあえずイヤホンを確認した。
するとどうだろう、イヤホンが一回り大きくなっているじゃないか。
間違って他人の物を持ってきたかと思ったが、覚えのある細かい傷から見ても間違いなく自分の物だ。
混乱し、冷や汗をかきながら、電車の車窓から外を眺めた。
すると、窓に映るはずの自分が少ししか見えない。
そうか、俺が小さくなってるのか。
その事に気付いてしまうと、だんだん自分が小さくなっていくのがよく分かる。ついに、正面に立っていたほっぺの真っ赤な少年と同じ目線になってしまった。俺はそのほっぺを見て、昔、幼稚園で大暴れしていたいじめっ子を急に思い出し、なんだか怖くなりすぐに電車を降りた。

電車を降りて振り返ると、その少年はじっとこっちを見ていた。
だぶだぶの服を着ていたその少年は俺に何か伝えたかったかもしれない。

周りの視線を気にしつつ、ひとまず落ち着こうとベンチに向かった。
だぶだぶの服はとても歩きづらかった。

- written by kim -

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