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hort story

浮浪者
最近、良く見かける浮浪者がいた。
小柄な男で、年齢は35歳くらいだろうか。
ラッシュ時の駅前に正座し、目の前にコップを置き、
深々と頭を下げる。
「こんな私に、お恵みを」
という事なのか、それとも
「私を助ければ、あなたが救われる」
ということなのか。
俺には分からない。
よく見ると、彼は何かブツブツ言っている。
小さい声だが、同じ事を何回も繰り返しているようだ。
どうしても何を言っているか聞きたくなり、
近くを通ることにした。
人ごみをすり抜け、彼の前に立った。

すると彼はいきなり顔を上げ、ニンマリとこう言った。
「何も言っちゃいねえよ」

突然の事に驚いた俺はそのまま通勤の人の波におし流された。
振り返る事も出来なかった。

- written by kim -

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